シソーラス
『MUSEUM』440号で、コンピューターの特集を組んだのは、1987年11月号でした。ちょうど、その年の6月に東芝のJ-3100というラップトップを大枚はたいて買って、悪戦苦闘中だった時です。その頃は、大型コンピューターでしかできなかったことが、いわゆるパソコンでも可能なレベルに近づいた時期でした。そのため、この特集は論文というよりも、パソコンで何ができるか、というパソコンの機能の紹介のようなものでした。美術史学としての興味は、画像処理の方にむいていたようにおもいます。
しかし、パソコンという得体の知れない物を手元に置いて、何をしようかと考えたとき、個人でできるのは、文献目録しかないとおもいました。まだまだ画像処理は大型機でしか、できるレベルにはなっていませんでした。
それで、データベースソフトを使って、データベースの構築に労力を使うことにしました。『MUSEUM』454号(1989年1月)に「機械処理による目録データの加工」という論文が掲載されました。これは、東京国立博物館の所蔵品の目録をデータベースにするという作業についての経験談のようなものでした。
紙に書かれた収蔵品目録をいかにしてデータベースソフトに入力するかという論考でしたが、要は、紙に書かれたデータはそのままでは、書式が統一されておらず、文章での解説は、データベースとしての機能におさまらないので、紙台帳を加工しなければならなかったのですが、そのために、新たに紙台帳をつくりなおしたり、データの入力を外部委託したために、その作業要領を作成しなければならなかったり、実に非効率なやり方でした。しかも、使用するソフトはバージョンが古いものを使用するといった具合でした。
これは、コンピューターのソフトを扱える、または、その機能に熟知している美術史研究者がいないために、データベース設計が自由に行えなかったことによるものでした。当時、その論文を読んで、何てめんどくさいことをやっているのだろうと、歯がゆさを感じたものでした。
その一方で、美術史のデータベース作成の研究もすこしずつですが、進んできました。筑波大学では、『日本美術シソーラスデータベース』の研究が1992年からはじまりました。おもに絵画のデータベースの構築をめざしたようです。ここで、問題となったのが、日本美術のシソーラス作成の問題です。シソーラスとは、『類義語辞書』とでもいうべきもので、言葉(専門的主題語=ディスクリプタ)をグルーピングして、階層化することによって、検索もれを防ぐものです。つまり、美術史に使われる用語をピックアップして、その上下関係を明確にした、木構造にすることなのです。
ということは、美術史において使われている用語のしっかりとした定義が必要となるのです。また、新しい概念が現れれば、その更新もしなければなりません。
筑波大学は、結局のところ、データベースの構造と、いくらかの分類をしただけで、このプロジェクトは終了してしまいました。
既存の美術史用語を蒐集し、それからシソーラスを構築しようとしたことに、何らかの問題があったようにおもいます。美術史用語のしっかりとした、定義がなければ、木構造として配置することは不可能です。
「半跏像」とは、「踏下像」とは、といった定義がなければ無理なのです。その作業ができていなかったのではと思います。
そして、今や検索は、自然言語によるのが主流になってしまっていますが、それでもシソーラスの有効性はまだ消え失せてはいないと思います。誰がやるのかだけなのですが。
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