横浜開港記念会館ステンドグラス(改修後)
以前から気になってしょうがなかったことがありました。去年の9月24日付で『横浜開港記念会館ステンドグラス』と題してブログに掲載したことです。その時はステンドグラスの改修の途中で、改修の工程を見学しました。その後、今年の3月末日に完成し、元の場所に取付られ、完成記念講演会も4月26日には開催されたそうです。残念ながら、講演会も完成したステンドグラスの見学も行く機会に恵まれませんでした。それで、やっと時間がとれた機会をつかんで行ってきました。まずは、完成後のステンドグラスの状況の把握からです。
建物の中に入ると、ボランティアの解説員が中学生相手に解説をしていましたが、それをすりぬけて2階にあがって、まず最初の印象は、確かに以前の改修前の黄色っぽいよごれた感じはなくなりました。しかし、どこか白っぽい印象でした。それは、すぐにわかりました。ステンドグラスの前に透明硝子が嵌っていたのです。私の杞憂があたりました。そのことについては後ほどくわしく述べますが、次に気になったのは、補強材がやけに目立つなと思いました。裏にまわって見ると、補強の丸棒が以前より太く、数多く縦横に入っていました。なるほど、去年の講演会でこの修復作業をしている平山健雄氏の言っていることとは、こういうことだったのかと合点がいきました。しかし、この修復方法はさまざまなことで問題があります。以下くわしくその問題点を述べようとおもいます。かなり専門的になりますがご勘弁を。
まず、この改修の工程は、くわしくパネル展示されていましたので、そのことについては、問題があるわけではありません。もとにもどした時、改修前と改修後にどのような違いがあるのかは、目視だけではわからないことがありますので、そのことは、しっかりと報告はしてほしいのです。それが報告書という形で出されるにしても、どういう判断をしたのかという事実をしっかりと記述して後世に残してほしいのです。
完成したステンドグラスパネルの補強方法及び、木枠に嵌める方法について、改修前と相違があります。このことについて、いまのところパネルにも説明がありませんでした。それで、どのような改修計画で、どのような施工方法だったのかは、現時点では想像するしかありません。
まず、補強方法について、左右のステンドグラスは、縦3~4本、横3本の12~3mm程度(以前の補強材は9mmの真鍮だったと言っていましたのでそれよりも太い丸棒)の補強材が入っています。しかもその補強材の縦横を溶接して、いはば格子状にして、四方の木枠に固定してあります。つまり、完成したステンドグラスパネルを取り付ける工程としては、まず、木枠に固定した補強材の枠をビスで固定します。つぎに、4分割されたステンドグラスパネルを下から入れていきます。そして、パネルの鉛桟の補強材の位置に予めハンダづけした針金を補強材に結んで固定していきます。そして、4段のパネルをくみ上げてそれぞれ、針金で補強材に固定します。その後、透明硝子(サイトで調べると、強化硝子10mmだそうです)を両面に嵌めています。ステンドグラスを木枠で両面固定しているので、透明硝子はステンドグラスに密着していません。以上のようです。
さて、この施工法は充分に耐震性を考慮した方法なのでしょうか。まず、地震で硝子が破損する条件については、いままでの大地震の度に検討され、建築基準法も改定が行われてきました。このステンドグラスの施工法はその経験が生かされているとはいえません。いままでの地震の経験から、導き出された施工法とは、ガラスは割れ物である。よってガラスに応力を加えてはならない。よってガラスは枠に固定してはいけない。というのが基本です。これは、昭和53年におきた宮城県沖地震が教訓になっています。そのとき、はめ殺し窓のパテ施工のガラスが数多く破損し落下しました。それ以後、建設省告示により、はめ殺し窓には弾性シーリング材を使用するように改められました。つまり、地震における層間変位に対応するには、ガラスを枠の中で固定しないで、エッジクリアランスを充分に取ることが最善の方法であることが明記されたのです。
それで、Bouwkamp(ブーカム)理論とよばれる計算式によって、安全なエッジクリアランスを算出できる方法を確立させたのです。
このステンドグラスの施工法はこういった経験がいかされているのでしょうか。ステンドグラス自体はある程度枠の中で動くようになってはいますが、ステンドグラスを固定する補強枠が問題です。この補強枠は開口部の変形に対応できません。つまり、地震がおきて枠に層間変位がおきたとき、補強材がまず変形します。すると、補強材に止めていた針金が引きちぎられるか、またはパネルに応力がかかり、パネルがそれによって変形しガラスが破損するということになります。つまり、パネルは枠の中で固定しないという基本的なことがなされていないのです。
それでは、どういう施工法がベターだったのでしょうか。まず、格子状の補強がこの大きさのステンドグラスで必要なのでしょうか。おなじ建物の階段室のボーハタン号のステンドグラスは縦に1本のフラット棒を使っていますが、それは枠には固定されていません。もっとも横幅が違うので、一概にいえませんが、こんなに太い補強材が必要だったのかはもっと検討するべきだったと思います。見た目も改修前とは違ってくるのですから。さらにその格子状の補強材を木枠で固定したことが問題です。これには、実にいい教訓があるのです。
ガラスブロックの施工法です。昭和50年代までは、ガラスブロックの補強筋は躯体に固定していました。ところが、それでは地震による変形に対応できなくて、破損の事故が多発したために、施工法を改良したのです。今行われている施工法は枠のなかにガラスブロックを積むことを原則とし、鉄筋は枠のなかで固定しないですべるようにしたことです。これによって、地震によるガラスブロックの破損事故が激減しました。
もうひとつ、硝子の施工法は『JASS17 ガラス工事』(建築工事標準仕様書)によって、詳細に規程されています。それによると、ガラスの破壊防止のためには想定する地震の層間変位に対応するために、エッジクリアランスの寸法が規程されています。ステンドグラスについては書かれていませんが、外側に嵌めたガラスが10mmとすると、エッジクリアランスは10mm、ガラスのかかりしろは12mmと規定しています。ということは、四方押縁で固定してあるので、押縁の高さは少なくとも22mm以上なければいけません。実際は20mmの木の押縁でした。
あまり長くなってしまったので、ステンドグラス両面に嵌めた透明ガラスについては、次の機会に詳細にお話することにします。
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