模様入りスリガラス
先日訪れた民家は、ふじみ野市立福岡河岸記念館が正解でした。上福岡市と大井町が合併して、ふじみ野市となったためです。
さて、その福岡河岸記念館には、さまざまな模様のスリガラスがありました。その中で、1階の引き違い障子の中央に2枚嵌っている柄が気になりました。どこかで見たことがあると思い、データを探してみると、高橋是清邸の障子に嵌っているガラスと模様が同じでした。
もうひとつ同じ例を見つけました。先日見てきた、厚木市古民家岸邸の土間に嵌っているあかり取りの窓です。市松模様で、色硝子をはめていますが、それ以外のガラスがこの模様です。
この建物については、後ほど詳細に報告しようとおもいますが、建物は明治24年に建てられています。しかし、かなり補修が入った建物なので、このガラスが当初かどうかはわかりません。
高橋是清邸は、明治44年、赤坂に建てられた木造の和風建築です。現在、小金井の江戸東京たてもの園に移築されています。
3つとも、建物は明治時代に建てられています。新築当時から、ガラスを入れ替えていなければ、このガラスの模様は、すでに、明治時代にパターン化していて、しかも、そういうガラスを加工する工房か工場があったということになります。
福岡河岸記念館の建物に嵌っている他の模様入りスリガラスをみてみると、模様のついたガラスを外国から輸入したとも考えられますが、模様は松葉や、紅葉柄、鶴亀紋など和風柄です。これらは日本古来の伝統的な模様なので、加工は国内でされたと見るべきでしょう。
国産の板硝子が生産されたのは、明治42年のことですから、すくなくとも、輸入ガラスを加工する技術をもった工場が国内にあったということになります。
この加工されたガラスをみると、いわゆる手吹き円筒法による泡だらけのガラスのようではありません。すでに、外国で開発された機械吹き円筒法によるガラスのようでもあります。
それにしても、模様柄には、さまざまなパターンがあったようです。おそらく見本帳のようなものがあって、施主はそれを見て、発注したのだろうと想像されます。
こういう模様入りのスリガラスは、一般家庭にもかなり普及したようです。昔の縁側のある家では、廊下と座敷の間に障子ではなく、ガラス戸をつけるようになり、しかも、全然外が見えないスリガラスではなく、一部分に透明部分をのこした模様をつけたガラスをはめたのです。
また、和室には雪見障子をつけ、そのガラスには、紐状の縁を装飾したガラスをよく入れていました。
これを業界では、“紐抜き”といって、そういう加工を専門にする加工屋が昭和50年代にはあった記憶があります。
こういう技術は、時代の流れでしょうか、もう消えつつあります。
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はじめまして。
すりガラスについて興味があり、調べている最中に、こちらの記事をよませていただきました。
明治時代から変わっていなければ、すでに模様入りのすりガラスを作る工場があったと思うと、
かなりすごいなと思いました!
質問させていただきたいのですが、
すりガラスの文化というものは日本特有のものなのでしょうか?
それとも、海外から伝わってきた文化なのでしょうか?
もしご存知であればお聞かせいただけますと幸いです。
どうぞ宜しくお願い申し上げます。
かねこ
投稿: かねこ | 2019年1月 8日 (火) 22時10分
「春秋堂日録」にアクセスいただきありがとうございます。
ご質問の件、あいにくと海外の板硝子事情は、多少疎いのですが、海外では、不透明(光は通すが、形がぼやける)硝子は、いわゆる型硝子、あるいは色硝子を使うようです。
そもそも、スリガラスは、透明硝子のゆがみをとるために、摺った工程を途中でやめた状態をいいます。私はサンドブラストで作られたいわゆるスリガラスのことを、区別するためにケシガラスと呼んでいます。このようにいわゆるスリガラスには、2種類の工程でつくられたものがあります。
模様入りケシガラスは、日本独自の工法で作られたものです。いわゆる着物の小紋のような染織方法でつくられています。たった100年ほど前の製品なのに、どこで作られたかが解明できていません。
今わかることは、この模様入りケシガラスはほんの一部を除いて、関西以西ではその例がありません。作っている、あるいは販売している史料は、関西圏なのに、実際に嵌まっている例がないのです。不思議ですね!
投稿: 加藤春秋 | 2019年1月 9日 (水) 09時27分