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2022年4月 9日 (土)

日本近代の板ガラスから立花大正民家園へ

日本の板ガラスの製造は、実質的には明治42年(1909)旭硝子によって初めて市場にでました。それまでは、欧州からの輸入に頼っていました。
そのため、板ガラスの輸入増加は外貨残高を圧迫し、国家的な問題となっており、国産品の製造が渇望されていました。
やっと、製造された板ガラスは、手吹き円筒法でした。しかし、外国では、ラバースによって、明治38年(1905)に機械吹き円筒法が開発されていました。

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旭硝子は、その新技術を大正3年(1914)に北九州戸畑の牧山工場に導入し、生産を開始しました。

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その後、新しく設立した日米板硝子は、大正5年(1916)に開発されたコルバーン法をいち早く導入し、大正9年(1928))には、生産を開始したのです。

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コルバーン法


このような、急激な発展は、大正3年(1914)第一次世界大戦によって欧州での板ガラス生産がストップしたことによります。数年後、欧州で生産が復興する頃には、日本の板ガラス生産は、アジアに輸出するまでに発展していました。旭硝子は、昭和3年(1928)には、フルコール法を導入し、生産力を増強していったのです。

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さて、このような日本において板ガラスの普及状況を見て、明治以降、戦前の建物に嵌まっている板ガラスを見てみると、その板ガラスがどのような方法で作られていたのかがわかると、その建物の歴史や建築年代がわかるようになるのです。もっとも、板ガラスは割れ物ですので、煩雑に入れ替えがあります。また、建物の改修で、取り替えられることも考慮にいれなければなりません。
そこで、板ガラスの製造法を目視によって、判定できないかと考えてきました。数多くの近代の建物に嵌まっている板ガラスを観察していくと、ある程度の判断がつくようになりました。


たとえば、手吹き円筒法の板ガラスは、不規則なゆがみ、多数の泡、また、斜めに線がはいるのが特徴です。この斜めの線はおそらく円筒に吹いたとき、吹き竿を回しながら吹くので、円筒にねじれが生じた痕跡のようです。

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手吹き円筒法のガラス



機械吹き円筒法になると、不規則なゆがみとともに、長く延びた泡が目立ちます。また、まっすぐに円筒形に伸ばすので、手吹きのように斜めの線は現れません。

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機械吹き円筒法のガラス



コルバーン法、フルコール法では、規則的なゆがみ、つまり、板ガラスが柔らかいときにロールにはさんでのばすので、平行なゆがみがでます。また、泡は延びることはありません。

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コルバーン法あるいはフルコール法のガラス

これをふまえて、立花大正民家園(旧小山家住宅)に嵌まっている板ガラスをみてみることにしましょう。この建物は大正6(1917)に建てられています。

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その後、一部の改修があったようですが、建具とガラスは、ほぼ創建当初のもののようです。管理人の老人に聞くと、5~6枚くらい在庫があったようですが、管理人はこの家の親戚で、小さい頃から出入りしていたようで、子供がガラスを割ったこともあって在庫のガラスで補修はおこなわれていたようです。まず、入側縁南の硝子戸には、長く延びた泡が散見されます。また、不規則なゆがみも確認できます。ということから、機械吹き円筒法による板ガラスと判定できます。

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入側縁南の硝子戸

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まさに、この建物の創建時とみることができます。便所のスリガラスには、長く延びた泡がありますが、その泡の中は透明になっています。つまり、スリの加工はサンドブラストではなく文字通りガラスの表面を擦って作ったことがわかります。

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スリガラスの泡 擦ったため泡が削れている


浴室には、型ガラスが2種類と結霜ガラスがはまっています。この型ガラスの模様は、国産ではなく、舶来とおもわれます。結霜ガラスはその他の建具にも嵌まっていますが、日本では、結霜ガラスの技法は、もう明治初期には確立されていたようで、電球の傘に使われていました。

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その結霜ガラスは大々的には、旭硝子、日本板硝子が板ガラスの生産を始めて間もなく作られていたようです。しかし、その後昭和に入って、型ガラスの生産がはじまると、急激に縮小していったようです。

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結霜ガラス(上下)


室内の引き戸には、いわゆる紐抜加工をしたガラスがほとんどの建具に嵌まっています。この加工法は、厚い紙をガラス全面に貼り、模様を切り抜いた後、サンドブラストによって、抜いた部分に砂を吹き付け、消し加工をほどこす方法です。

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子持ち木爪

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木爪組紐

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中消し子持ち木爪

この加工法は、ガラスの大きさによって模様の位置が決まり、すべてガラスの現寸に合わせた個別加工になりますので、大変手間のかかるガラスになります。

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サンドブラスト機


数十年前までは、その加工を専門にやる業者がいましたが、もう、探すのに苦労するほどに少なくなっています。その加工屋の出している見本帳によると、それぞれに名前がついています。

まだまだ、調べなくてはならないことがありますが、この建物は大正時代のものとはいえ、機械吹き円筒法のガラスの使用例としては注目に値します。というのは、この機械吹き円筒法はもう、その設備が途絶えていますし、その技術もありません。今でも細々と行われている手吹き円筒法やフルコール法とは違って、設備がないため復元できません。これしかないということです。

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