『佛教藝術』休刊
『佛教藝術』が1月30日刊行の第350号で休刊になりました。創刊が昭和23年(1948)8月ですから、私ごとですが、私の生きてきた間、ずっと刊行されてきた研究誌でした。
私がはじめて、『佛教藝術』を購読したのは、71号からでした。大学の2年の時だったと思います。この雑誌を定期的に買おうとおもった、ということは、この道に進もうと覚悟したからだったかもしれません。
結果的には、叶いませんでしたが、その後、1冊も切らさず手に入れてきました。
350号の末尾には、 『佛教藝術』休刊のお知らせ が掲載されていますが、休刊の理由として、
- 専門的内容の研究誌を取り巻く状況が厳しい
- 研究誌としての高い質と誌面編成を維持しつつ継続することが困難
を揚げていますが、要は、仏教美術の研究者が減少していることに尽きると思います。
研究者の数が少なければ、それだけ論文の数も少なくなるのは自明の理でしょう。
では、美術史の分野の中で、なぜ仏教美術の研究者が少なくなったのでしょうか。もともと、仏教美術という分野は、他の分野と違って、難解であるという先入観があるようです。前提となる仏教(宗教)の教義を理解することに躊躇するのでしょうか。
今、書店の美術関係の書棚を見ると、仏像の入門本が、常に数十冊並んでいます。この数年、静かな仏像ブームだそうです。いわゆる団塊の世代を中心とした中高年が、その知的好奇心を満たすのに、絶好のテーマだからなのでしょう。
それなのに、若い世代は、美術というと、西洋絵画か、日本美術では、近世・近代絵画に興味が向いているようです。
仏教美術という、せまい分野を研究テーマにするメリットは、今は、もうなくなってしまったのでしょうか。
たとえば、1980年~2000年ころ、日本各地の自治体では、文化財の悉皆調査を実施していました。その調査を実施するため、若い研究者が、実際に作品にふれることができる実体験の場が提供されていました。しかし、バブルがはじけると、真っ先に予算を削る分野となりました。そのために、仏像の調査ができる研究者が、一人もいない都道府県がまだ存在している結果となりました。
仏像研究者の数をふやすことが急務なのに、それができない状況になってしまいました。
『佛教藝術』の休刊は、その現状に対抗できなかったためでしょう。
現状では、この衰退現象はなにもしなければ、ますます加速することは目に見えています。では、この現状を打開するには、どうしたらいいのでしょうか。
少なくとも、今の現役の仏教美術研究者にその危機感が感じられません。研究者は、自身の論文執筆のためや、もろもろの雑仕事で、いそがしくて、学会のことなど、考える暇もないのでしょう。
学会は、単なる、研究発表の場を提供するだけの機関ではないはずです。研究者の研究できる環境づくりに、力を注がなければならない機関なのです。
どこの業界でも業界団体はあります。その団体の構成員は、それぞれが、仕事上のライバルであると同時に、業界全体の発展のために、さまざまな手を打って団体を運営しているのです。
それが、美術史の学会でも充分機能しているのなら、こんなことにはならなかったのではありませんか。外から見ると、学会というものが、このように見えてしまいます。
「春秋堂文庫」を2年ぶりに、更新しました。
350号休刊に会わせて『佛教藝術』図版論文総目録を上掲しました。
項目数は、図版4442件、論文2259件 になります。
号数順、編著者別、分野別にそれぞれ、分けて掲載しました。
このデータベースが、仏教美術研究者の研究の手助けになり、また、新たに仏教美術を研究する人の支援になることを期待いたします。
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